人生100年時代の仕事の決め方と転職【LIFE SHIFT】

人生100年時代の転職はどう考えていけば良いのかな。これまでの転職とは何が違うんだろう。そう思っている方へ。

この記事では人生100年時代の仕事の決め方と転職について解説します。


人生100年時代には何事も長期的視点がより重要になる

人生100年時代という言葉をご存知でしょうか。この言葉は『LIFE SHIFT』という本の中でリンダグラットン氏が打ち出した言葉です。人生100年時代には私たちはより長く(100歳を超えて)生きるようになり、その結果生きている間に経験する社会の変化が増え、それらを乗り越えるための人生設計の重要性が大きくなるとともに内容もこれまでとは異なってきます。

私たちがより長く生きるようになりたくさんの変化を経験することになる時代には、長期的な視点で物事を考えることがこれまでより大切になってきます。私たちの人生だけでなく建築物などにも同じことが言えますが、何か一つを長く続けようと思えばそのためには丁寧なメンテナンスの計画と実施が欠かせないからです。

人生100年時代については以下の記事でも解説していますので参考にしてみてください。


転職にもより長期的な視点で取組む

ここでは、寿命が長くなる人生100年時代には転職も長期的な視点を持って取り組む必要があることを解説します。

人生100年時代に変わること

人生100年時代のこれまでとの大きな違いは、人生のステージの種類が多くなりしかもこれら人生ステージの行き来がこれまでより活発になることです。このような特徴を持つ人生100年時代の転職は長期的視点を持って行う必要があります。

これまでは学生→就職→結婚→退職→老後と、生まれてから死ぬまでの人生を一つの方向に直線的に進んでいた人が多かったのが、人生100年時代ではそうではなくなります。

人生100年時代でよく着目されるテーマとして寿命や年金のこと、老後の生活のことばかりが取り立たされますが、『LIFE SHIFT』のなかで説明されているテーマや人生への影響はもっと幅広く多岐に渡ります。

『LIFE SHIFT』は人生が長くなること、つまり長く生きるようになることによる影響について幅広く論じていて、その理論の核をなす重要なものが上で説明した人生のマルチステージ化です。

例えば高校→就職→大学→結婚→就職→大学→起業→売却→大学→就職→退職→老後といったパターンも考えられるでしょう。上の図には書き表しませんでしたが、ここに書いているステージとステージの間の移行期間も人生100年時代での重要なステージです。これまでのやり方とは異なる人生のあり方を実現するためには、私たちが次に行くための準備ステージの重要性が必然的に大きくなります。次にこの点について説明します。

転職の位置付けと意味の変化

転職は、ある仕事から別の仕事へと転じるための活動です。そのため転職は先ほど説明した移行ステージそのものだと言えます。よって、人生100年時代において転職は今よりも頻繁に行われるようになり、しかもその重要性は現在より大きくなるでしょう。

これまで転職は一直線の中の就職から退職までの間の出来事で、その中での詳細ステップをいかにうまく進むかということがテーマとなる活動でした。この直線は曲がりが少ないほどいいものと認識されがちでした。もう少し具体的に言えば直線的なキャリア、直線的な学歴、直線的なストーリーが求められたということです。

人生100年時代には人生のステージ移行は一直線・不可逆的には進まなくなるため、決まった直線の中の一場面をスムーズにこなすための活動という意味合いとは異なってきます。

マルチサイクル化した人生の仕事と転職

何度も複数のステージを行き来するという点について、仕事に注目して考えてみましょう。

先ほどから、人生100年時代には私たちの人生がマルチステージ化すると述べてきましたが、より正確には人生はマルチサイクル化すると言った方が正確かもしれません。人生にはこれまでにも複数のステージがあったのですが、人生100年時代には生きる時間が長くなりその複数ステージをいろんな方向にそして場合によって同時進行で自由にステージ移行する時間があって、実際にそうする人が増えるという意味です。

イメージとしては、社会のなかにたくさん存在している各個人が持つ様々な資質やスキルを発揮する機会(=仕事)に常にアンテナを張り、仕事以外の活動とのバランスやタイミングを見ながら複数の仕事機会に自分自身が価値を提供していく、そんな形になるのではないでしょうか。

長期的視点を持つため仕事の本質を見つめ直す

仕事は生活費を稼ぐためだけのものではなく一人一人が社会と繋がって得意なことで力を発揮することで互いに助けあい、また同時に私たち一人一人が自己実現をしていく場です。

さらに仕事について押さえておかなければならない大切なこととして、原則論として仕事は誰かの幸せの実現のために、誰かの役に立つためにするのだということです。ここでいう誰かとは、会社などの事業や活動をいとなむ組織または個人の提供する商品やサービスの価値を受け取る人です。誰かのためと言った時に、決して事業体である会社の中の従業員や役員、社長のためではないことに注意してください。もちろん会社は人が集まり協力することで一人では達しえないレベルの商品やサービスを提供するのでチームプレイは大切ですが、あくまでも最終的な目的は事業が提供する商品やサービスの価値の受益者への価値提供であり、視野を広げればその事業の存在によって世界を少しでもより良い方向に変えることです。

カルト宗教

仕事をするのが最終的には世界がよくなるためだという点をカルト宗教の例で念のため補足説明します。世の中にはカルト宗教が存在します。カルト宗教は独自の教義をもち、その教義に従って犯罪に手を染めることも珍しくありません。カルト宗教はかなりの大所帯になっていることもあり、その中で組織があり序列があります。このカルト宗教が凶悪犯罪に手を染めるとき、組織の幹部からメンバーに対して一斉に犯罪行動の指示が下され、メンバーはそれを実行します。この時、メンバーのとった犯罪行動はカルト宗教の他のメンバーや幹部の役に立つでしょうし、喜ばれるでしょう。しかしながら、翻ってそのカルト宗教の外の世界に目をうつせば、その行為は実害があるため世界の人からは全く喜ばれません。
このような行為を実際に行ったカルト宗教のメンバーの人生ももちろん一度きりであり、貴重な時間を世界を悪くすることのために貴重な時間を割いたことになります。カルトにおいてその行為を実施した時には「世界のため」と整理されている可能性がありますが、そうではなかったのです。ある活動が世界のためになっているのかどうか、すぐに簡単にわかるものではないかもしれません。しかしながら、少なくとも実際に生きている私たちが、自分自身の一度きりの貴重な時間を世界をより良い方向に変えるために使えているのか、常日頃から自分自身に問いかける必要があると思うのです。

言ってしまえば、会社は儲かって社長は喜ぶけどその活動によって社会がまた一歩悪い方向に進むとあなたが考えるのであれば、世界全体の持続の面から言って間違ったものなので、その活動に真剣に取り組むべきではありません。社会や世界は私たち一人一人が働きかける対象であると同時に、私たちが長く住むことになる場所でもあります。もちろん、私たちの子供やそのまた次の世代も長く住んでいく場所です。なので、大切に扱いましょう。

仕事のこのような本質的な面をもう一度よく見つめ、本来の仕事をするために自分は何ができるのか、そしてそのためにどのような努力をすべきなのかを考えた上で仕事探しをすることが、人生100年時代の転職には求められると言えます。

人生100年時代の仕事選びの基準

ここでは、人生100年時代における転職活動での仕事選びの観点について解説します。

これまでにも解説してきた通り、人生100年時代の特徴はたくさんの人が長生きすること、変化の経験の増加、経験する多くの変化への対応が重要となる点です。これらの特徴を踏まえ、転職や仕事選びをする上で大切にすべき仕事選びの観点があります。以下で一つずつ解説します。

社会の持続性を高める仕事

1つ目の観点は、「社会持続性を高める仕事」であるかどうかです。先ほど説明した仕事の本質を見つめる点に通じる観点です。

どれだけ一生懸命取り組んでも、その仕事の結果達成しようとしていること=事業目的が間違っていたり、一見社会の持続性を維持できそうな事業目的が掲げられていても実際の活動を見ると全く目的に沿った活動をしていないというような仕事や会社は選ばないようにしましょう。

ある事業が世界の持続性維持の観点から問題ないかを見る動きは世界でもますます活発になってきており、例えば事業資金を得るための柱である投資家からの投資も世界の持続性を無視していると受けられなくなりつつあります。一つの例として、世界最大の投資会社ブラックロックは、投資先の企業に対して働き方改革を要請したり、脱炭素に向けて投資先に積極的な行動を要請したりしています。

日本の国家予算の8倍、7.4兆ドル(約817兆円)の運用資産を有する世界最大の資産運用会社であるアメリカのブラックロックによるものだ。

同社のラリー・フィンクCEOは投資先企業のCEO宛ての年頭書簡で、「低炭素社会への移行は政府のリーダーシップのもとに進められるべきだが、同時に、企業や投資家にも果たすべき重要な役割がある」と述べ、ブラックロック自体が気候変動対策に前向きに取り組むことだけでなく、投資先企業にも積極的な行動を求めた。

東洋経済 『ブラックロックが「脱炭素化」に本腰になる事情』2020.2.29
https://toyokeizai.net/articles/-/332784

上記記事内にもある通り、ブラックロックだけに限らず投資の世界でESG投資(ESG:環境、社会、ガバナンス)の実践的な徹底の潮流はますます強くなってきています。

このように、経済活動のメインストリームにおいても、社会の持続性を高めようとする動きは強くなってきています。社会の構成員、企業を含むあらゆる組織の構成員は結局のところ人間であり私たち一人一人です。私たち一人一人が社会の持続性を高める仕事を選んでいくことで社会は変えられます。

長く無理なく柔軟に続けられる仕事

2つ目の観点は、その仕事が長く無理なく柔軟に続けられる仕事であるかという点です。

一度就職してからあらかじめ決められた一定の期間だけ仕事してあとは老後で悠々自適ということが前提であれば、パートナー(妻など)の時間や家族と過ごす時間・その仕事以外の活動の時間を全て犠牲にしながら耐え忍ぶという仕事の仕方もできるのかもしれません。

しかし、先ほど説明したように人生100年時代の私たちの人生は長いので、長生きを前提として自分の心や身体・パートナー・家族・そのほかの活動もバランスよく大切にしながらそれぞれにおいて長い付き合いをしてくということを考えた場合、選んだ仕事をして家に帰って食事だけして寝る、といったような生活スタイルを招くような仕事は選ぶことができなくなります。それではあまりにも消耗しすぎて何もかもがすり減っていき、最後には本来は維持すべき関係や状態がボロ切れのようになってしまうからです。

それではどんな仕事を選べば無理なく長く続くのか。無理なく長く続く仕事は、一言で言えば自分の特性や考え方に合った仕事です。自分に合った仕事の選び方については以下の記事に書いていますのでそちらも参考にしてみてください。

また、柔軟に働くということに関して、勤務の場所や時間に囚われずに働くことができれば仕事以外の活動とのバランスは飛躍的に取りやすくなります。

リモートワークについては、メリデメと実践のために必要な環境やツールについてまとめましたので以下の2つの記事を参考にしてみてください。

自分の資産を増やす仕事

3つ目の観点は、「自分の資産を増やす仕事」です。

人生100年時代にはお金などの有形資産だけでなく、スキル・経験・信頼関係などの無形資産もこれまでより重要性を増します。人生の中で相当の割合の時間を仕事をして過ごすとすれば、仕事は有形資産・無形資産を増やすことができるものを選ぶべきです。

収入でなく有形資産を増やす

有形資産について注意したいのが、大切なのはいかに高いサラリーなどの収入を得るのかでなくいかに「資産を増やすか」だということです。いくら収入を得ても収支バランスが間違っている、自分としてのビジネスポートフォリオが間違っているなどの理由により一向に資産が増えないというケースも考えられますので注意が必要です。

仕事で無理しすぎるとパートナーとの関係は崩れる

無形資産についても重要な注意点があります。仕事選びの基準の1点目にも関係しますが、無理をしすぎるような仕事を選ぶとパートナーとの関係は崩れるという点です。この問題は今に始まったことではなく熟年離婚としてすでにかなり以前から顕在化している問題です。もちろんパートナーリングの形は結婚だけではありませんが、どのような形態であっても、ある程度密なリレーション協力関係を保ちたいのにその時間が割けないという状況はフラストレーションや遺恨につながります。そのため、仕事で無理をしすぎるとパートナーとの関係は崩壊します。

なぜこの点を改めて強調するかというと、人生100年時代においてパートナーとの関係はますます重要になるからです。リンダグラットン氏もこの点については『LIFE SHIFT』の中で触れていますし、私自身の実感としてもそう感じます。

このような事情があるため、無形資産の中でも重要性の高いパートナーとの関係を適切に維持できる仕事を選ぶことをお勧めします。

まとめ

この記事では人生100年時代の仕事と転職について解説してきました。私たちの人生が長くなり多くの変化を経験することになる人生100年時代には自分にも社会にも嘘偽りなく無理のない仕事を選びましょう。