人間らしく働きがいのある仕事ディーセントワークと働き方改革

人間らしい仕事や働きがいのある仕事がしたい。働き方改革が流行っているけどそもそも何のためのどんな改革なんだろう。日本の中だけじゃなく世界では人間らしい働き方についてどう考えているのかを知りたい。そのようにお考えの方へ。

この記事では、国際労働機関(ILO)が提唱する人間らしく働きがいのある仕事を意味する言葉ディーセントワークについて、また日本の働き改革との関係について解説します。

この記事を読むことで、ディーセントワークの概念が理解でき、ツールや方法論にばかり注目が集まりがちな働き方改革の目的を考える際のヒントを得ることができます。


ディーセントワークの意味とILOにおける位置付け

国際労働機関(ILO)は労働・人権関連の社会正義を実現するために活動する国連の専門機関です。そんなILOが、人間らしく働きがいのある仕事についての考え方として「ディーセントワーク」という考え方を打ち出しています。

国際労働機関(ILO)については以下の記事で詳細に書いていますので参考にしてみてください。

ここではILOが打ち出すディーセントワークの基本的な考え方や位置づけについて解説します。

ディーセントワークとは

ディーセントワークは、以下のような概念を包含する仕事と考えられています。

  • 生産的
  • 公正な収入
  • 職場での安全
  • 家族の社会的な保護
  • 個人の成長が見込める
  • 社会とのつながり
  • (社会への)関心を自由に表現する
  • 重要な意思決定を形成/参加する

ディーセントワークという言葉は一言で言うと「人間らしく働きがいのある仕事」と言われますが、そのような仕事のための要件となる詳細条件を見ると、実に多くの要素が含まれることがわかります。また、上にあげた要素のどれ一つをとっても、実感するほどになるにはかなり努力を要するなかなか難しいものではないでしょうか。

参考:“decent work” by international labor organization

ディーセントワークはILOの主目標

人間らしく働きがいのある仕事ディーセントワークは、国際労働機関の主要目標として位置付けられています。どういうことかもう少し説明します。

国連にはILO以外にもWHOなど様々な専門機関があります。各専門組織ごとにそれぞれ役割がありますが、ILOは国際労働機関という名前からもわかるように国を超えて世界レベルで労働関係の社会正義を実現する使命を持った組織です。

国際連合広報センターのwebページに記載のあるILOの役割を確認しておきましょう。

国際労働機関(ILO)は、社会正義と人権および労働権を推進する。1919年に設立され、1946年に国連の最初の専門機関となった。ILOは労働・生活条件を改善するための国際的な政策やプログラムを策定し、これらの政策を実施する国内当局の指針となる国際労働基準を設定する。また、政府がこれらの政策を効果的に実施できるように幅広い技術協力を行い、かつそうした努力を前進させるために必要な研修、教育、調査研究を行う。

出所:国際連合広報センター
https://www.unic.or.jp/info/un/unsystem/specialized_agencies/ilo/

ディーセントワークは、労働・生活条件を改善するための国際的な政策やプログラム策定や国際労働基準の設定というILOの活動によって達成できる「社会正義と人権および労働権の推進」という目的のための主な目標(ゴール)として位置付けられているのです。

これはなぜかというと、ディーセントワーク(人間らしく働きがいのある仕事)の要素一つ一つが実現されていけばいくほど、「社会正義と人権および労働権の推進」というILOの目的達成に近づくことができるからです。

ディーセントワークはいってみればマイルストーンのようなものだと考えることができます。

再掲:ディーセントワークの要素

  • 生産的
  • 公正な収入
  • 職場での安全
  • 家族の社会的な保護
  • 個人の成長が見込める
  • 社会とのつながり
  • (社会への)関心を自由に表現する
  • 重要な意思決定を形成/参加する

働き方改革について

日本で最近よく聞くようになった働き方改革についてその目的や取り組みを確認したいと思います。

働き方改革は日本の厚生労働省が主導して行っている取り組みであり、ポイントは以下の通りです。(厚生労働省による(「働き方改革」の実現に向けて」より筆者が趣旨を要約)

1.日本社会の課題

  • 少子高齢化に伴う生産年齢人口の減少

2.働き手の課題

  • 育児や介護との両立
  • 働き方ニーズの多様化

3.上記課題を受けた国としての働き手の働き方改善課題

  • 就業機会の拡大
  • 意欲や能力を存分に発揮できる環境作り

4.上記3の課題解決に向けた目標(To Be像)

  • 働き手の事情に応じた多様な働き方が選べる社会の実現
  • 働く方一人ひとりがより良い将来の展望を持てるようにする

このように見てくると、働き方改革が必要とされる根底には現在の日本社会最大の課題の一つである少子高齢化とそれに関連する働く個人一人一人の課題が横たわっていて、厚生労働省はその解決のためのアクションとして働き方改革を位置付けていることがわかります。

参考:厚生労働省「働き方改革実現に向けて」

ディーセントワークと働き方改革の関係

ここまでに、ディーセントワーク(人間らしく働きがいのある仕事)と働き方改革についてそれぞれ解説してきました。

ここではディーセントワークと働き方改革の関係について解説します。

ディーセントワークと働き方改革には接点があります。

ディーセントワークは生産的であり、公正な収入や働き手個人の成長や社会とのつながりや社会とのつながりが見込め、さらには社会の重要な意思決定に参加できるというような複数の性質を備えた仕事あるいは仕事の状態のことです。

一方で働き方改革は、多様な働き方と働き手の明るい将来展望を目指したアクションです。

ディーセントワークという仕事のあり方を通したILOの目的は「社会正義と人権および労働権の推進」・・・①であり、働き方改革の背景にあるのは少子高齢化状況の改善のための「就業機会の拡大や働き手の意欲や能力発揮の土壌づくり」・・・②です。

就業機会を拡大することや能力や意欲が発揮しやすい状態を作ること・・・①と社会正義や人権・労働権の推進・・・②の関係を考えると、①が②に含まれる、または①を達成して初めて②も達成できるようになると言えます。

よって、働き方改革というアクションは、ILOが目指す「社会正義と人権および労働権の推進」のためにも必要であると言えます。

では、ディーセントワークと働き方改革の直接の関係はどうなるのかですが、私の仮説はこうです。

仮説:働き方改革によってディーセントワークの概念に含まれる人間らしく働きがいのある仕事の要件の一部が満たされるようになる。

これは見方を変えると、働き方改革の取り組みではディーセントワークで求められる全ての要件は満たせないということでもあります。

働き方改革で取り組むディーセントワークの要素

先ほどディーセントワークと働き方改革の関係について仮説を書きました。ここではその仮説をもう少し深掘りし、働き方改革でカバーされるディーセントワークの要件はどれなのかを考えてみたいと思います。

働き方改革の目的は以下の通りでした。

  • 働き手の事情に応じた多様な働き方が選べる社会の実現
  • 働く方一人ひとりがより良い将来の展望を持てるようにする

ここでさらに働き方改革について理解を深めるために実際の施策を見てみます。

<労働施策に関する基本的事項>
労働施策基本方針に掲げる施策一覧


1.労働時間の短縮等の労働環境の整備
○長時間労働の是正(P3)
○過労死等の防止
○中小企業等に対する支援・監督指導(P3)
○業種等の特性に応じた対策等の推進
○最低賃金・賃金引上げと生産性向上
○産業医・産業保健機能の強化
○安全で健康に働ける労働環境の整備
○職場のハラスメント対策及び多様性を受け入れる環境整備(P4)


2.雇用形態又は就業形態の異なる労働者の間の均衡のとれた待遇の確保、多様な就業形態の普及及び雇用・就業形態の改善
○雇用形態又は就業形態にかかわらない公正な待遇の確保など非正規雇用労働者の待遇改善(P4)
○正規雇用を希望する非正規雇用労働者に対する正社員転換等の支援(P5)
○柔軟な働き方がしやすい環境の整備


3.多様な人材の活躍促進

○女性の活躍推進(P5)
○若者の活躍促進(P5)
○高齢者の活躍促進(P6)
○障害者等の活躍促進(P6)
○外国人材の受入環境の整備
○様々な事情・困難を抱える人の活躍支援


4.育児・介護又は治療と仕事の両立支援
○育児や介護と仕事の両立支援(P6)
○治療と仕事の両立支援


5.人的資本の質の向上と職業能力評価の充実

○リカレント教育等による人材育成の推進(P7)
○職業能力評価の充実


6.転職・再就職支援、職業紹介等に関する施策の充実
○成長分野等への労働移動の支援(P7)
○職場情報・職業情報の見える化
○求人・求職情報の効果的な提供及び地域の雇用機会の確保(P8)


7.働き方改革の円滑な実施に向けた取組(P8)

出所:厚生労働省 「労働施策基本方針」
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000148322.html

上記の厚生労働省の実際の働き方改革施策を、ディーセントワークの要素と比べてみた結果、以下で太字にした要素については働き方改革で取り組んでいるのではないかと考えます。なお、カッコ内の数字は働き方改革の施策の中で該当すると考えられる施策の番号です。

■再掲 ディーセントワークの要素

  • 生産的   (1)
  • 公正な収入 (2)
  • 職場での安全 
  • 家族の社会的な保護 (4)?
  • 個人の成長が見込める(5)
  • 社会とのつながり (3)
  • (社会への)関心を自由に表現する
  • 重要な意思決定を形成/参加する

このように、可能性があるものも含め、働き方改革ではディーセントワークとして求められる要素の一部に少なくとも取り組んでいると言えそうです。

ただし、取り組んでいるというだけで、その施策内容や実施状況が果たして十分であるのかは別の問題です。

まとめ

この記事では、国際労働機関(ILO)が提唱する人間らしく働きがいのある仕事であるディーセントワークについて紹介し、日本で厚生労働省が主導して取り組む働き方改革との関係について解説しました。

働き方改革の施策によって少しでも人間らしく働きがいのある仕事=ディーセントワークが実現していくことを心から願います。