国際労働機関(ILO)による人間らしい働き方への取組と日本

ブラック企業で働いていて辛い。もっと人間らしい仕事をしたい。人間らしい仕事のためのルールはないのかな。そう考えている方へ。

この記事では、人間らしい働き方(ディーセントワーク)を提唱している国際労働機関(ILO)とはどんな組織なのか、そしてILOと日本と日本で働く私たちとどんな関係があり、日本はどのような取り組みをしているのか解説します。

この記事を読んでいただくことで、世界レベルでの人間らしい働き方実現への取り組みと日本での取り組み等について知ることができます。


国際労働機関(ILO)とは

国をまたがる貧困・衛生・経済・教育などの課題を解決する国際機関である国際連合。そんな国際連合の一専門機関として国際労働機関(ILO)という組織があります。ILOは労働・人権・社会正義の実現するための国連の専門機関で、彼らの定めるプログラムや国際労働基準が加盟している各国の担当当局における労働関連の政策実施の指針となります。

国際労働機関 International Labour Organization(ILO)

国際労働機関(ILO)は、社会正義と人権および労働権を推進する。1919年に設立され、1946年に国連の最初の専門機関となった。ILOは労働・生活条件を改善するための国際的な政策やプログラムを策定し、これらの政策を実施する国内当局の指針となる国際労働基準を設定する。また、政府がこれらの政策を効果的に実施できるように幅広い技術協力を行い、かつそうした努力を前進させるために必要な研修、教育、調査研究を行う。ILOは国際機関の中でもユニークな存在で、政策の作成にあたっては労働者と使用者の代表が政府代表と平等の発言権を持つ。ILOは3つの機関から構成される。

・国際労働会議(総会)- 毎年開かれ、政府、使用者、労働者の3者代表が参加する。国際労働基準を設定するとともに、全世界にとって重要な社会問題や労働問題を討議するためのフォーラムとなる。
・管理理事会 - ILOの活動に指示を与え、事業計画と予算を作成し、ILO基準が順守されていないとの苦情を審議する。
・国際労働事務局 - ILOの恒久事務局である。

出所:国際連合広報センター
https://www.unic.or.jp/info/un/unsystem/specialized_agencies/ilo/

日本はILO創設時からの加盟国

先ほどILOは労働や人権の分野での社会正義を実現するための国際機関であることを紹介しました。日本はそんな国際労働機関の創設時からの加盟国です。なお、ILOへの加盟国は2019年3月時点では187ケ国です。世界の全ての国が196ケ国なので、ほとんどの国が加盟していることになります。

日本は、国際労働機関(ILO )が誕生した1919年からの原加盟国です(1940年から1951年の間は脱退)。ILO創設メンバーである日本とILOは長きにわたり、活発で緊密な関係を築き上げています。

日本には、1923年に東京支局が開設されました。東京支局は、2001年に事務局長直轄の事務所となり、2003年には駐日事務所に改称されました。

国際労働機関WEBページ
https://www.ilo.org/tokyo/ilo-japan/lang–ja/index.htm

国際労働機関(ILO)での議案採択

ILOでは、先ほど紹介した労働などについての社会正義の実現のために定期的に集まって話し合いをしています。そして社会正義の実現のために各国にアクションを要請するときは、議案を採択します。

この議案採択による各国への要請方法は2種類あり、それは条約と勧告です。

第19条

1 総会が議事日程中のある議題に関する提案を採択することに決定したときは、総会は、その提案が(a)国際条約の形式をとるべきか、又は(b)取り扱われた問題若しくはその問題のある面がそのときに条約として適当と認められない場合には事情に応ずる勧告の形式をとるべきかを決定する。

出所:ILO憲章、フィラデルフィア宣言
https://www.ilo.org/tokyo/about-ilo/organization/WCMS_236600/lang–ja/index.htm

条約・勧告に関する加盟国の義務

ILOに加盟するにはILO憲章に記載された義務の受諾が条件となることが第1条に明記されています。

第1章 組織 第1条

3 国際連合の原加盟国及び国際連合憲章の規定に従い国際連合総会の決定によって国際連合の加盟国となることを認められた国は、国際労働機関憲章の義務の正式の受諾を国際労働事務局長に通知することによって、国際労働機関の加盟国となることができる。

出所:ILO憲章、フィラデルフィア宣言
https://www.ilo.org/tokyo/about-ilo/organization/WCMS_236600/lang–ja/index.htm

この義務は先ほど紹介した条約または勧告に関するもので、『国際労働機関憲章』(フィラデルフィア宣言)19条に明記されています。大きくは2点あり、それは以下のものです。

  • 条約または勧告の内容を権限のある機関に提出すること
  • 条約で決められたことや勧告されたことについて自国の法律及び慣行の現況を国際労働事務局長に報告すること

上記2点以外に義務はありません。ちなみに日本では上記の権限ある機関とは国会を指しています。

労働を管轄する当局は厚生労働省

日本では、労働に関する政策を行う当局は厚生労働省ですので、ILOで実施されるプログラムや国際労働基準が指針となって厚生労働省が日本における労働基準を定め人間らしい仕事や働き方の実現に向けて取り組むことになっています。

労働の基本的原則・権利宣言による加盟国の義務の強化

1998年にILOで新たに宣言がなされました。この宣言は世界のグローバル化への対応として出されたもので、グローバル化後の社会進歩や公平な富の分配の実現のために出されたものです。

先ほど議案採択には条約と勧告があるが義務としては権限ある機関への提出と状況報告の2点だけと書きましたが、この宣言は加盟国の義務をかなり強化しました。

宣言は第一に、ILO加盟国は当該条約を未批准の場合でも、「誠意をもって、憲章に従って、これらの条約の対象となっている基本的権利に関する原則」を尊重する義務を有する

出所:労働における基本的原則及び権利に関する ILO宣言とそのフォローアップ
https://www.ilo.org/tokyo/about-ilo/decent-work/lang–ja/index.htm

加盟国の義務自体を増やすこの記述は影響が大きいです。

この宣言によって、条約を批准していない場合も「誠意をもって、憲章に従って、これらの条約の対象となっている基本的権利に関する原則」を尊重することが義務となり、実質的には加盟国は批准していない場合でもその条約の内容に書かれた権利を労働者に保証すべきであると考えられるからです。

2 すべての加盟国は、問題となっている条約を批准していない場合においても、まさにこの機関の加盟国であるという事実そのものにより、誠意をもって、憲章に従って、これらの条約の対象となっている基本的権利に関する原則、すなわち、

 (a)結社の自由及び団体交渉権の効果的な承認

 (b)あらゆる形態の強制労働の禁止

 (c)児童労働の実効的な廃止

 (d)雇用及び職業における差別の排除

を尊重し、促進し、かつ実現する義務を負うことを宣言する。

出所:労働における基本的原則及び権利に関する ILO宣言とそのフォローアップ
https://www.ilo.org/tokyo/about-ilo/decent-work/lang–ja/index.htm

日本にも批准していない条約がいくつかあるのが現状ですが、この宣言によって批准していない条約についても上記a-dに書かれているような事項について尊重・促進・実現の義務を負うことになります。

なお、日本が批准(受け入れ)している条約の内容については以下のページで確認できます。

参考:日本が批准している条約一覧

また、ILOが出している国別のページがあり、日本のページは以下となります(英語)。こちらのページは全て英語になりますが、日本についてILOが調査した結果なども確認することができます。

参考:ILOにおける日本ページ

まとめ

この記事では、国連の専門機関である国際労働機関(ILO)について、その役割と日本との関わり、また日本を含む加盟国が持つ義務等について解説しました。