人間らしい仕事はどんな仕事かと何が実現できるのか解説

AIやロボットの時代に人間はどんな仕事をするのか、人間とロボットの役割分担や関係はどうなるのか。AIやロボットの登場で人間はより人間らしい仕事をすることができると言うけどそもそも人間らしい仕事ってどんな仕事だろうか。

この記事では、AI(人工知能)やRPA、ロボットが実社会で活用され出している現代社会での人間らしい仕事とは何で、その本質は何なのかについて考察してみたいと思います。


人間らしさとはなにか

人間らしい仕事とはなにかについて考えるにあたり、まずはじめに「人間らしさ」とは何かを確認します。

ウィキペディアの「人間」の項目内の「性質」の説明を確認してみます。

人間の特徴のひとつは、言語を現在ある様な状態で使用し、自分の心の中で言語を用いて考え、以て互いの意思疎通を図ることにある。
人間は文字や言語を抽象的なシンボル(象徴)として扱ったり、論理思考(論理学)を行い、多様な事象に様々な解釈を行う。多くの研究者の主観では知能は地球上の全ての生物の中で最も高度であると考えられている。
好奇心や知識欲は比較的旺盛で、その多くは少なからず自身の関心事に対して「知ること」と「考えること」を好む性質も見られる。一般的には、様々な意味で人間自身が最も人間の関心を引くようである。

人間は、知識だけでなく、自らの精神や心にも注意を向けることができる。「心のありかた」や感じ方そのものを探求するだけでなく、それを自ら積極的に変革する努力を行うこともあり、例えば瞑想や内観などを行うこともある。宗教体系を持ち、それによって生活様式を整えている人間も多い(例えばアブラハムの宗教の信者だけでも30億人を超えている)。
道具を作り利用する能力が他の生物よりも長けていることも挙げられる。現在では機械装置といった高度化した道具を作り利用する事で、ほぼ他の生物が生存不可能な極限環境でも生活することができるまでになっている。ただし極限環境での生活は一般に負担が大きいため(コスト等)、大抵は着衣のみの調節で生活可能な地域に分布している。

出所:ウィキペディア「人間」

上記の説明からキーワードとなる言葉を取り出すと以下のようなものがあります。

  1. 言語を含むシンボルの活用と操作
  2. コミュニケーション
  3. 文化・遊び
  4. 論理的思考
  5. 知的好奇心
  6. 内省
  7. 高度な道具の活用

人間らしい仕事

ここでは人間らしい仕事について考察します。

前提:人間らしい仕事を考えるときの「仕事」の意味

仕事には様々なものがあります。そもそも仕事という言葉を「職業」という意味に捉えることもできますが、「人間らしい仕事」について検証する場合、仕事の意味は職業というよりはそれぞれの仕事に含まれる活動の性質から考えるのが妥当ではないでしょうか。なぜなら、一つの職業の人がやる仕事の中に様々な活動(労働)が含まれていて、その活動(労働)内容の一つ一つごとに人間らしいかどうかを問うことが大切だからです。

人間らしさの定義から考える人間らしい仕事

ウィキペディアにおける人間らしさの定義に含まれる各要素から「人間らしい仕事」とは何なのかを考えてみます。

「人間らしい仕事」を考える際に最終的には職業別に分けて考えないとしても、職業具体的な職業にどのようなものがあるのかを知っておくことは考える上で参考になります。たとえば日本であれば厚生労働省がまとめている「職業分類表」があります。

これらの職業を見ればわかりますが、現代における多くの職業はさきほどの「人間らしさ」の要素の一部をその活動=仕事内容として含んでいます。

職業により各「人間らしさ」要素の必要性に強弱がある

現代の仕事は何かしらの形でウィキペディア記載の「人間らしさ」の要素を含んでいるものですが、仕事の内容によって各要素がどれほど必要か、または活用の機会があるかはかなり異なるように思います。そしてこの違いは業界というよりは職種による違いが大きいのではないでしょうか。そのように考える理由としては、どの要素がどれくらい能力として強く求められるかは実際に仕事の中で行う一つ一つのタスク内容によるところが大きいからです。例えば業界を問わず営業職はコミュニケーション力はかなり強く求められます。

ILOが提唱する人間らしい仕事=ディーセントワーク

国際労働機関という、国連の一つの専門機関があります。この機関はそのミッションとして人間らしい労働や公正な労働であるディーセントワークというものを掲げています。ディーセントワークは以下の条件を満たす仕事とされ、ILOはこれを実現するために活動しています。

ディーセントワークは、以下のような概念を包含する仕事と考えられています。

  • 生産的
  • 公正な収入
  • 職場での安全
  • 家族の社会的な保護
  • 個人の成長が見込める
  • 社会とのつながり
  • (社会への)関心を自由に表現する
  • 重要な意思決定を形成/参加する

ILOやディーセントワークについては以下の記事で説明していますので気になる方はそちらも参考にしてください。

国際労働機関(ILO)の定義は、ウィキペディアの説明にある動物との違いとしての人間の性質というよりは、社会における労働の位置づけや過去の歴史を踏まえ人々の生活や人権に焦点を当てて人間らしい労働を定義しているのが特徴的です。

国際労働機関(ILO)は上記のように人間らしい働き方や仕事について定義し国際的なルールをつくって加盟している各国に条約などの形でそのルールをもとに人間らしい仕事が実現していくように働きかけています。

AIやロボットができない人間らしい仕事

AIやRPA,ロボットなどのテクノロジーが活用されるときには、業務の効率や品質改善が目的としてよく語られます。ところがその一方で、ロボットに現在の仕事を任せたあと人間がする仕事についてはあまり論じられていない印象があります。

AIやロボット活用が実際に検討されるとき、その後の人間の仕事に関してよく言われるのが、AIやロボットの導入によって「ロボットでもできる仕事はロボットに任せ、人間はより人間らしい仕事やより創造的な仕事(または本来の業務)」を行うようになるという言葉があります。

「より人間らしい仕事」や「創造的な仕事」とは何かを考え、AIやロボットの活用によって浮いた時間を実際に何に活用するか、具体的に考えた上で企業がこの説明をしているのならいいのですが、多くの場合は残念ながらあまり具体的には検討されていないように思います。

しかしながら、おおよその意味としては、2020年3月時点では、(弱い)AIでは判断ができないレベルの判断の仕事やリスクが高いため人間が介在しないと危ない仕事、また物理的にまだ物理ロボによっては再現できない複雑または繊細な動きを必要とする仕事がAIやロボットではできない仕事として考えられているようです。

人間らしい仕事と理想の生活

人間らしい仕事は理想の生活と密接に関係していて、いつもセットで考えることが望ましいと考えます。なぜかというと「仕事としてどこで何をするか」は私達の人生設計、そして理想の生活と密接に関係しているからです。

例えば2020年3月時点の日本でまだまだ多いように感じる新卒時から総合職として働くというスタイルは転勤を前提としていることが多いですが、多くの人は転勤がいつ訪れるかも知れないという可能性を結果的に選択していると言うことができ、これは理想の生活をどのようなものとして捉えているかという価値観と関係しているでしょう。

次からは私達人間にとっての理想的な生活について考察します。

理想の生活とは

人間の理想の生活はどのようなものでしょうか。ここでは「理想の生活=なんの制約もない場合に私達がそうしたいと最も望む生活」と前提を置き、人間の理想の生活について考察します。

理想の生活には様々な形がある

人間にとっての理想の生活とさきほど言いましたが、人間はにいろんな人がいます。生まれ育った環境も民族も言語も、所属してるコミュニティも仕事も趣味も家族構成も、いろんな要素で違いがあります。

いろんな人がいて価値観もそれぞれ違うので、理想の生活も人によっていろいろあるはずです。さらに言えば、同じ人でも時間の経過やその時のタイミングや人生のステージによって価値観は変わってくるでしょう。細かくチェックすればきっと無限に理想の生活のパターンが考えられるのですが、便宜的にいくつかのパターンにまとめて考えてみます。

インプット・学習中心の生活

1つ目の生活としてインプット中心の生活があります。これは何かを学んだり吸収したりすることに重きをおいた生活で、例えば学校生活や職場での研修期間などでなにか一つのテーマについて必要なことを学び成長することを中心とする生活です。アウトプットのための準備期間としての生活とも言えるかも知れません。

この生活はアウトプットをしないため、予め不労所得を用意していない場合はインプット期間中の収入は基本的にはなくなります。ただし奨学金などをもらえるならその分の収入はあるかも知れません。

インプット中心の生活は、アウトプット中心の生活の中で、価値を提供するための知識や課題意識が不足していると感じた場合やなにかのテーマについて集中的に調べて課題を深堀りしたいなどの場合に理想的と言えそうです。それから、そもそもいろんなことをとにかく勉強したいという気持ちの強い人にとっても理想的な生活かも知れません。

アウトプット・価値提供中心の生活

にほんでいうところの社会人の場合は、仕事などアウトプット中心の生活をしている場合が多いでしょう。本来的にこの生活では商品やサービスを新たに生み出すか付加価値をつけて、課題解決や生活のさらなる改善のためにだれかに価値を提供します。この生活では誰かに価値を提供することの対価として収入を得ることができます。そのため資産をつくるには最適な生活です。社会に価値を提供してなにかの課題をなんとかしたい気持ちが強い場合や資産をつくりたいので収入を得ることに注力したい場合はこの生活が理想的でしょう。

遊び中心の生活

理想的な生活の3つ目は遊び中心の生活です。

まず遊びの意味を確認します。

遊び(あそび)とは、知能を有する動物(ヒトを含む)が、生活的・生存上の実利の有無を問わず、心を満足させることを主たる目的として行うものである。基本的には、生命活動を維持するのに直接必要な食事・睡眠等や、自ら望んで行われない労働は含まない。

出所:ウィキペディア

遊びは人間にとって貴重なものです。オランダの歴史家のホイジンガは、人間のことをホモ=ルーデンスと呼びました。ルーデンスは遊びという意味であり、遊びこそが人間の文化の源泉だというのがホイジンガの説です。ここで参考までに文化の意味も確認しておきます。

人間の知的洗練や精神的進歩とその成果,特に芸術や文学の産物を意味する場合もあるが,今日ではより広く,ある社会の成員が共有している行動様式や物質的側面を含めた生活様式をさすことが多い。

出所:コトバンク

上記の説明も参考にすると、遊びは今日の様々な科学や文明の元になったものとの捉え方ができそうです。よく言われる話として、過去にSF小説で描かれたことが現代科学によってどんどん現実化しているという事実があります。SF小説は空想の産物でありその小説家が生きる時代の「実利」にはあまりつながらなかったことも踏まえると、遊びこそが人間を進化させているという一つの例と言えるのではないでしょうか。

休息や回復が中心の生活

3つめは休息や回復が中心の生活です。この生活では心身を休ませ回復させることが主な目的です。アウトプット中心の生活で頑張りすぎて燃え尽きてしまった場合や病気や怪我、心の疲れによってまとまった回復を必要とする場合には理想的な生活と言えます。

また、基本的に働くよりものんびりするのが好きという気持ちが強い人もこの生活が理想的でしょう。人はゆっくりと休み暇な時間ができて自分自身や社会についてゆっくり考える時間ができたとき、社会の課題をなんとかしたいという思いが湧いてきたり誰かを喜ばせたい、何かを探求したいと心から想うようになるのではないかと思います。なので、休息は個人的にはかなり重要なものではないかと思います。

理想の生活はやりたいことをやる時間と力を増やすことで実現

さきほどいくつかの理想の生活のパターンを説明しました。いずれのパターンの生活も当然ながらその実行のためには実際にそのような理想の生活に当てるための時間とそれを実現するための力が必要です。

そのときの理想の生活が遊びや休息が中心の生活の場合は容易に創造できるでしょうし、アウトプット(価値提供)中心の生活の場合でも仕事を通して自分が提供したい価値を世の中に提供するにはやはり時間と力が必要です。

やりたいことをやる時間と力は人間らしい仕事で増やせる

やりたいことをやるための時間と力をどうつけるかはあらゆる人にとっての最重要課題です。この方法として、「人間らしい仕事」をすることが有効だというのが私の考えです。

その理由は主に以下2つです。人間らしい仕事は

  • 時間とエネルギーに余裕が生まれる
  • 長く使える力が身につく

順に説明します。

時間とエネルギーに余裕が生まれる

人間らしい仕事では職場環境における身体的・心理的安全が守られ、生活に必要な分の給与も支払われます。そのため身体的・精神的に追い詰められる可能性が低くなり余裕が生まれやすくなります。

また、組織で仕事ルール・職場ルールの整備や業務効率化が進んだ環境があれば業務そのものに無駄な時間がかかったりひどいトラブルや混乱が発生することも少ないと考えられ、仕事の疲れも溜まりにくくなります。

長く使える力が身につく

人間らしい仕事では人間が人間であるからこその論理思考や批判的思考・創造力・発想力・コミュニケーション力などを活用します。このような能力を使う仕事は、AIやロボットでは置き換えられにくく人間社会が存続する限り残りやすいでしょう。

人間とAI・ロボットの協働で人間がやりたい活動時間の割合を増やす

人間らしい仕事とは何かを考える際に無視できないのが、近年すこしずつ企業での活用が進みつつあるAIやRPA、ロボットなどの先進テクノロジーの活用です。
いまこれらのテクノロジーの導入の際に名目としてよく挙げられるのがAIやロボットの活用によって「人間はより人間らしい仕事や創造的な仕事にシフトできる」ということです。

私は経営コンサルタントとしていくつも企業がAIやロボットを導入しようとする姿を見てきました。それらの経験を経て最も感じることは、AIやロボットの導入を進めるときに業務プロセス全体をモレなくダブりなく詳細にチェックし、業務プロセスの変更もはじめからやる前提で人間とAI・ロボットそれぞれの仕事や役割をしっかりと適材適所で当てはめて人間とAI・ロボットが協働することで、最終的に人間がやりたいことをやるための時間を増やすこそ最も重要だということです。
これらテクノロジーを理解して使いこなし社会の中に実装、実活用できる力もつけることができればそれ自体がやりたいことをやるための力にもなります。

まとめ

この記事では、人間らしい仕事とはどんな仕事なのか、そして人間らしい仕事をするとどんないいことがあるのか、理想の生活を実現するための方法として解説しました。